65歳まで働くのが当たり前になる時代。「定年まで逃げ切る」が危険になった理由

65歳まで働くことが珍しくない時代、「今の会社で定年まで逃げ切ればいい」という発想はむしろ危険かもしれません。役職、市場価値、専門性、家計などから、40代が人生後半の働き方を考え直します。

40代になると、ときどき頭をよぎる言葉がある。

「このまま定年まで逃げ切れないかな」

仕事に大きな不満があるわけではない。

給料もそこそこ。

会社も今すぐ潰れそうではない。

役職もある。

だったら、あと十数年。

大きな冒険をせず、余計なことをせず、会社の中で何とかやり過ごす。

そして定年。

退職金。

年金。

そんなゴールを思い描く。

気持ちはよく分かる。

40代になると、20代のように何度も転職する気力はない。

住宅ローンがある。

家族がいる。

教育費もかかる。

転職して年収が下がるのも怖い。

だから、

「もう今の会社で最後まで行ければいい」

と思う。

しかし、ここに一つ大きな問題がある。

その“最後”が、昔より遠くなっている。

60歳で仕事人生終了。

あとは年金。

そんな単純な時代ではなくなってきた。

多くの人にとって、

60歳を過ぎても働く。

65歳まで働く。

場合によっては、その先も働く。

そう考えることが現実的になっている。

すると、40代からの会社人生は思った以上に長い。

45歳なら65歳まで20年。

50歳でも15年。

これは、

「もう少し我慢すれば終わる」

という長さではない。

むしろ、

もう一度キャリアを作り直せるほどの時間

が残っている。

今回は、40代会社員が「定年まで逃げ切る」を前提にすることの危うさと、人生後半をどう考え直せばいいのかを整理してみよう。


60歳は「ゴール」ではなくなった

以前は、

60歳定年。

退職。

年金生活。

というイメージが強かった。

もちろん今も60歳を定年としている会社はある。

ただし、実際の働き方はその先まで続くことが多い。

再雇用。

継続雇用。

嘱託。

契約社員。

別会社への転籍。

定年延長。

形はさまざまだ。

つまり、

60歳になった瞬間に、

「はい、仕事終了」

とは限らない。

40代が考えるべきなのは、

60歳まで会社に残れるか

ではなく、

60歳を過ぎても、どう働くか

ということだ。

ここを考えずに、

「とりあえず今の会社で定年まで」

だけを目標にすると、60歳になったとき突然次の問題が始まる。

何の仕事をするのか。

給料はいくらなのか。

役職はどうなるのか。

どこで働くのか。

自分の経験は外でも使えるのか。

20年近く先送りしてきた問いが、一気に来る。


「定年まであと15年」は短くない

例えば50歳。

定年60歳ならあと10年。

「もう終盤だな」

と思うかもしれない。

でも65歳まで働くなら15年。

45歳なら20年。

かなり長い。

学校で考えてみると分かりやすい。

小学校6年。

中学校3年。

高校3年。

大学4年。

全部合わせても16年。

つまり45歳から65歳までというのは、

小学校入学から大学卒業までより長い。

それを、

「もうキャリア終盤だから」

と何も変えずに過ごすには長すぎる。

会社が変わる。

仕事が変わる。

技術が変わる。

組織が変わる。

自分の体力も変わる。

家族の状況も変わる。

20年間、今と同じ環境が続くと考える方が不自然だ。

だから40代で必要なのは、

「逃げ切る計画」

ではなく、

変わっても生き残れる計画

になる。


会社は「あなたの定年」まで同じ形で存在するとは限らない

40代になると、

今の会社で20年近く働いてきた人もいる。

会社のルールが分かる。

人脈もある。

評価制度も分かる。

社内用語も分かる。

どこへ相談すれば話が進むかも分かる。

この“慣れ”は強い。

同時に、危険でもある。

なぜなら、

会社の中でしか通用しない能力が増えやすい

からだ。

例えば、

社内調整が得意。

社内システムに詳しい。

社内の稟議を通す方法を知っている。

誰に相談すればいいか分かる。

もちろん会社では価値がある。

しかし転職市場に出た瞬間、

「それを他社でどう再現できますか」

と聞かれる。

そこで説明できないと、

20年間働いてきたのに、

「外から見ると何ができる人か分からない」

ということが起きる。

会社の中ではベテラン。

外では説明の難しい人。

40代からは、ここを意識した方がいい。


「会社に必要とされる」と「市場に必要とされる」は違う

長年同じ会社にいると、

「自分は会社から必要とされている」

と思える場面がある。

重要な会議に呼ばれる。

部下がいる。

相談される。

役職がある。

決裁権がある。

だから安心する。

しかし、

会社に必要とされていることと、

転職市場で必要とされることは同じではない。

会社の中では、

「あの人がいないと困る」

と言われる。

でも転職面接では、

「具体的に何を改善しましたか」

「売上にどう貢献しましたか」

「何人の組織をどう変えましたか」

「他社でも再現できますか」

と聞かれる。

ここで答えられるか。

40代では、

社内評価を社外語へ翻訳する力

が必要になる。

例えば、

「営業部長でした」

だけでは弱い。

「20人の営業組織を管理し、既存顧客の離脱率を改善した」

「営業プロセスを標準化した」

「新人育成期間を短縮した」

「新規開拓の仕組みを作った」

こうなると、外でも理解される。


役職は会社を出ると消える

課長。

部長。

本部長。

執行役員。

会社の中では大きな意味を持つ。

しかし退職すると、

肩書はその瞬間に消える。

名刺を返せば終わる。

少し厳しい言い方をすると、

役職は自分の所有物ではない。

会社から期間限定で貸されているものだ。

だから40代からは、

肩書を増やすことだけを目標にすると危ない。

重要なのは、

役職がなくなった後にも残るもの。

何ができるのか。

何を改善したのか。

誰を育てたのか。

どんな問題を解決したのか。

何を作ったのか。

何を売ったのか。

これが自分の資産になる。

もし明日、

「課長ではありません」

と言われても、

自分の価値を説明できるか。

一度考えてみる価値はある。


50代で突然「あなたのポストがありません」はあり得る

40代で怖いのは解雇だけではない。

会社の組織は普通に変わる。

部門統合。

事業撤退。

子会社化。

拠点閉鎖。

管理職削減。

役職定年。

専門職への転換。

こうしたことがある。

その結果、

「会社には残れるけれど、今のポストはない」

という状態になることもある。

これはかなり難しい。

給与が下がる。

権限が減る。

部下がいなくなる。

元部下が上司になる。

仕事内容が変わる。

人によっては、かなり心理的なダメージを受ける。

だから40代から必要なのは、

役職を守る努力だけではない。

役職がなくても働ける自分を作ること。

これが長い会社人生の保険になる。


40代から「専門性」を一つ持っておく

専門性というと、

エンジニア。

会計士。

弁護士。

医師。

のような資格職を想像するかもしれない。

でも、もっと広くていい。

営業。

採用。

人材育成。

購買。

物流。

業務改善。

商品企画。

マーケティング。

法人営業。

店舗運営。

プロジェクト管理。

顧客対応。

何でもいい。

重要なのは、

「私はこれができます」と言えるものがあるか

だ。

40代会社員の中には、

何でもできる人がいる。

会議。

調整。

資料。

部下管理。

顧客対応。

トラブル処理。

全部やる。

会社では非常に便利だ。

でも転職市場では、

「結局、何が一番得意なのですか」

と聞かれる。

だから、

自分の経験の中から、

一つか二つ。

外に出して説明できる専門分野を作る。

資格を取る必要はない。

実績を整理するだけでもいい。


「勉強し続ける人」が強い理由

40代になると、

「もう新しいことを覚えるのは若手に任せる」

という人もいる。

気持ちは分かる。

長年働いてきた。

経験もある。

今さら新人のように学びたくない。

でも、この姿勢は危ない。

仕事は変わる。

ツールも変わる。

顧客も変わる。

制度も変わる。

法律も変わる。

働き方も変わる。

20年前の正解が、今も正解とは限らない。

40代以降で強い人は、

若者より何でも早く覚える人ではない。

経験と新しい知識を組み合わせられる人

だと思う。

経験だけでも弱い。

新しい知識だけでも若い人には勝ちにくい。

でも、

20年の経験+新しい知識。

これは強い。

だから40代からの学びは、

「若者に追いつくため」

ではない。

自分の経験を古くしないため

にやる。


会社の外に「もう一つの自分」を持つ

会社員生活が長くなるほど、

自己紹介が会社名になる。

「○○会社の△△です」

会社の看板が強いほど、それで話が通じる。

でも一度、

会社名なしで自己紹介してみる。

自分は何者なのか。

何ができるのか。

何に詳しいのか。

誰を助けられるのか。

これを考える。

副業しなければならないわけではない。

起業する必要もない。

ただ、

会社以外の場所でも自分を説明できるようにしておく。

例えば、

業界の知人。

昔の同僚。

勉強会。

資格。

趣味。

地域活動。

SNS。

何でもいい。

会社の外にも人間関係があるだけで、視野は広がる。

長く一社にいると、

会社の常識が世間の常識に見えてくる。

外へ出ると、

「他社ではそんなやり方しないよ」

と気づくこともある。

その感覚は大事だ。


40代で一度、転職活動だけしてみる

今の会社を辞める必要はない。

むしろ辞める気がないときに、

一度転職市場を見るのも面白い。

求人を見る。

職務経歴書を書く。

自分と似た職種の給与を見る。

どんな経験が求められているか見る。

できれば、外の人と話してみる。

すると、

自分の市場価値が少し見える。

思った以上に評価されるかもしれない。

逆に、

「このままでは厳しいな」

と気づくかもしれない。

どちらでもいい。

50代になって突然、

「転職しなければならない」

となってから初めて市場を見るより、

40代で余裕があるうちに確認した方がいい。

転職活動は、

転職するためだけのものではない。

自分のキャリア健康診断として使える。


「年収を下げられない」が最大の弱点になることもある

40代になると給与も上がっている。

年収700万円。

800万円。

1000万円。

それ自体は良いことだ。

しかし生活水準も上がっていることがある。

高い住宅ローン。

車。

教育費。

保険。

旅行。

外食。

そして、

「もう年収700万円以下には戻れない」

となる。

すると転職先の選択肢が極端に狭くなる。

これは、

高年収そのものが問題なのではない。

高年収でなければ維持できない家計が問題になる。

40代から家計を少し軽くしておくと、

働き方の選択肢が増える。

年収700万円から600万円になっても暮らせる。

それなら転職できる会社が増える。

役職を降りる選択もできる。

週5日の激務から離れることも考えられる。

人生後半では、

「もっと稼げる」だけでなく、

「少し収入が下がっても生きられる」

ことも強さになる。


60歳以降に「何を売る人」になるのか

60代になったとき、

会社員としての肩書が弱くなったとする。

そのとき、

自分は何を提供できるか。

経験。

知識。

営業力。

マネジメント。

技術。

顧客ネットワーク。

教育。

問題解決。

何でもいい。

「この人に頼めば、これができる」

と言われるものがある人は強い。

逆に、

「○○会社で部長をしていました」

しかないと難しい。

会社名と役職がなくなった後、

何が残るか。

これを40代から考えておく。

かなり早いように感じるが、

むしろちょうどいい。


「65歳まで働ける会社」を探すより「65歳まで働ける自分」を作る

会社選びでは、

定年制度。

再雇用制度。

継続雇用。

福利厚生。

こうしたものを見る。

もちろん重要だ。

ただし制度は変わる可能性がある。

会社も変わる。

だから最後に頼れるのは、

自分自身の働く力

になる。

どこでも使える経験。

説明できる実績。

学び続ける習慣。

健康。

人間関係。

家計の余裕。

これらを少しずつ持つ。

すると、

「この会社を辞めたら終わり」

という恐怖が減る。

会社は重要だ。

でも人生全部を預ける必要はない。


「逃げ切る」という発想が苦しくする

定年まで逃げ切りたい。

この言葉には、

「今の仕事はもう楽しくない」

という気持ちが隠れていることがある。

あと10年。

あと8年。

あと5年。

毎年カウントダウンする。

これはかなり長い。

例えば45歳から、

「あと15年我慢」

と思いながら働く。

15年は人生の大きな部分だ。

だったら、

逃げ切る方法を考えるより、

少しでもマシな15年に作り変える方法

を考えた方がいい。

部署を変える。

役割を変える。

働き方を変える。

転職する。

勉強する。

副業を始める。

生活費を下げる。

何でもいい。

全部変える必要はない。

一つ変えるだけでも違う。


50代からの転職を「敗北」にしない

日本では、

同じ会社に長くいることが今でも評価される場面がある。

だから50代で転職すると、

「会社でうまくいかなかった人」

のように見られることがある。

でも、本来は違う。

人生が長くなれば、

働く期間も長くなる。

45年間働くなら、

会社が一社だけという方が不思議かもしれない。

20代で一社。

40代で二社目。

50代で三社目。

そんなキャリアも普通になっていく可能性がある。

大切なのは、

転職回数ではなく、

次の場所で何をするか。

転職を「逃げ」と考える必要はない。

同時に、

残ることを「負け」と考える必要もない。

どちらも手段だ。


40代後半からは「昇進」より「出口」を考える

会社員は上を見る。

次の役職。

次の給与。

次の評価。

でも40代後半になると、

上だけではなく、

出口も考える

必要が出てくる。

この会社をいつ離れるか。

60歳以降はどうするか。

会社を離れた後、何をするか。

収入はいくら必要か。

どこで暮らすか。

何歳まで働きたいか。

この問いは暗い話ではない。

むしろ、

人生後半を会社任せにしないための話だ。

出口が見えている人は、

会社との距離感も変わる。

必要以上に出世競争に巻き込まれない。

必要以上に会社へ依存しない。

自分の基準で仕事を選べる。


40代から作りたい「3つの逃げ道」

会社員生活には何が起こるか分からない。

だから、逃げ道を持っておく。

一つ目は、

仕事の逃げ道。

転職できる経験。

専門性。

人脈。

二つ目は、

お金の逃げ道。

生活防衛資金。

無理のない固定費。

退職後数カ月を生きられる余裕。

三つ目は、

心の逃げ道。

会社以外の人間関係。

趣味。

家族。

自分の時間。

この三つがあると、

会社が人生のすべてではなくなる。

そして皮肉なことに、

会社から少し離れられる人ほど、

落ち着いて会社でも働けることがある。


「最後の会社」を探さなくていい

40代転職では、

「次で最後にしたい」

と思う人が多い。

もちろん、一社で長く働ければ楽だ。

ただ、

最初から「絶対最後」と決める必要もない。

45歳で転職。

55歳でもう一度働き方を変える。

60歳から別の仕事。

そういう人生もある。

未来の自分が何を考えるかは分からない。

だから、

次の会社を“終着駅”ではなく“次の10年の場所”

くらいに考えてもいい。

それだけで転職先選びも少し柔らかくなる。


最後に――40代は「逃げ切り」を考えるには早すぎる

40代になると、

若手ではない。

会社でもベテランだ。

だから、

「もう新しいことはいい」

と思う。

でも人生全体で考えると、

まだ働く時間は長い。

45歳から65歳まで20年。

場合によっては、その先もある。

その20年を、

「今の会社にいられるか」

だけで考えるのはもったいない。

会社が自分を守ってくれるか。

それだけを考えるのではなく、

会社が変わっても、自分は働けるか。

ここへ視点を移す。

役職ではなく、実績。

社内評価ではなく、社外でも説明できる能力。

年収だけではなく、生活の耐久力。

会社の看板だけではなく、自分の名前。

これらを少しずつ作っていく。

40代から必要なのは、

定年まで逃げ切る技術ではない。

定年という言葉がなくなっても、自分の足で働き続けられる準備

なのだと思う。

今の会社に残ってもいい。

転職してもいい。

管理職を続けてもいい。

降りてもいい。

大切なのは、

「これしかない」

という状態にしないこと。

人生後半で一番強いのは、

最高の会社に所属している人ではない。

環境が変わったとき、

「じゃあ次はどうする?」と自分で選べる人だ。

40代は、その準備を始めるには遅くない。

むしろ、

今がちょうどいい。