「65歳の自分」は頼られるか、避けられるか。40代会社員が今考えるべき“会社を辞めるより先のこと”

40代になると「この会社にこのままいていいのか」という迷いが現実味を帯びてくる。転職か残留かを決める前に考えたいのは、65歳になった自分が誰かに頼られる人物になっているかどうか。会社の肩書を外した後に何が残るのか、40代からのキャリアを考える。

40代になると、ときどき考える。「この会社、この仕事を、このまま続けていていいんだろうか」と。

20代の頃なら、仕事が嫌なら転職すればいいと思えた。30代なら、もう少し給料のいい会社、自分を評価してくれる会社を探すという選択肢にも現実味があった。

ところが40代になると、話は少し複雑になる。仕事には慣れ、社内ではそれなりの立場になり、給料も若い頃よりは増えている。家族や住宅ローン、毎月の生活費など、簡単には動かせないものも増えてくる。

だから「会社を辞めたい」と思っても、勢いだけでは動けない。一方で、今の会社にあと10年、20年いる自分を想像すると、それはそれで妙な不安を感じる。

私自身、「このままでいいのか」と強く感じた瞬間はいくつかあった。個人として成長している感覚がなくなったとき、給与の上昇が一服したと悟ったとき。そしてもうひとつは、会社のトップの理不尽な態度や、意味がよく分からない経営方針を見て、「この人が自分の会社の社長なのか……」と、所属していることを少し恥ずかしく感じてしまったときだ。

給料が突然半分になったわけではない。明日会社が潰れるわけでもない。それでも、自分の中で何かが少しずつズレていく。

40代のキャリアを考え直すきっかけは、案外こういうものなのかもしれない。

40代の怖さは「不幸」ではなく「停滞」にある

仕事を始めたばかりの頃は、成長が分かりやすい。できなかった仕事ができるようになり、後輩ができ、任される仕事が増える。昇給や昇進も含めて、少なくとも自分が前へ進んでいる感覚がある。

ところが会社員生活が長くなると、その速度は少しずつ落ちてくる。仕事はできる。会議で何を言えばいいかも分かるし、社内で誰に話を通せば物事が進むのかも分かる。トラブルが起きても「まあ、こうなるよな」と予想できるようになる。

経験と言えば聞こえはいい。

ただ、ときどき思う。

これは成長しているのか。それとも、単に慣れただけなのか。

給与についても似たところがある。若い頃は毎年少しずつ給料が上がり、その先には役職や昇進があるように見える。しかし40代になると、自分の会社の仕組みがかなり見えてくる。

この先どんな役職があり、そこへ行けばどのくらい給料が増え、その椅子が自分に回ってくる可能性がどの程度あるのか。長く勤めていれば、おおよその想像がついてしまう。

そしてある日、「ああ。だいたいこの辺なんだな」と気づく。

ここが難しい。別に不幸ではないからだ。毎月給料は振り込まれるし、生活もできる。会社へ行けば仕事もある。だから辞めるほどではない。

しかし、昨日と今日と来年が、ほとんど同じように見えてくる。

40代のキャリアで本当に怖いのは、失業のような分かりやすい危機だけではない。「そこそこ安定しているから何も変えない」という状態が、そのまま10年続いてしまうことなのではないかと思う。

大企業なら正解、中小企業なら不正解なのか

会社について考えると、すぐに「大企業か中小企業か」という話になる。私自身、管理する側まで経験して、この考え方も少し変わった。

結局のところ、どちらが向いているかは人による。

身も蓋もないが、本当にそう思う。

もちろん、日本で会社員として生きるなら大企業に所属するメリットは大きい。給与や福利厚生、教育制度、社会的信用、組織としての安定性など、中小企業では簡単に真似できないものもある。

だから「大企業なんか辞めて、自分らしく生きよう」などと簡単に言うつもりはない。安全性だけを考えれば、大手企業に身を置くほうが有利なケースは多いだろう。

ただし、大企業から受けられる恩恵を、すべての人が同じように価値だと感じるわけでもない。

巨大な組織の中で専門分野を深く担当するほうが向いている人もいれば、小さな会社で営業も企画も顧客対応も経験しながら、自分で判断して仕事を進めるほうが面白い人もいる。

中小企業なら経営者との距離も近い。それを「自分の意見が経営に届く」と感じる人もいれば、「社長に振り回される」と感じる人もいる。

つまり、会社が与えてくれる恩恵と、それを恩恵だと感じられるかどうかは人によって違う。

大企業=勝ち、中小企業=負けという単純な図式では、自分に合った働き方は見つからない。

重要なのは会社のサイズではなく、その環境を使って自分が何を得られているかだ。

「会社を恥ずかしい」と感じたら、少し考えたほうがいい

待遇とは別に、私はもうひとつ会社を見る基準があると思っている。

自分が所属している組織を、自分自身がどう感じているかだ。

会社の経営方針に100%賛成する必要などない。社長を尊敬していなくても仕事はできるし、上司と気が合わなくても給料はもらえる。会社とは、ある程度そういうものだと思う。

ただ、理不尽な態度や理解できない経営判断を何度も目にしているうちに、「この会社で働いていることを、人に話したくないな」という感覚まで出てきたら、私は一度立ち止まったほうがいいと思う。

なぜなら、それは待遇ではなく自分の価値観とのズレだからだ。

40代になると、会社で過ごしてきた時間はかなり長い。そして、これから働く時間もまだ長い。人生の大きな部分を使う場所に対して、自分自身が敬意を持てなくなっているというのは、給与明細には表れないが小さくない問題だ。

もちろん、「給料をもらっているんだから仕方ない」と割り切れる人もいるだろう。それもひとつの生き方だ。

ただ私は、その違和感を完全に無視することはできなかった。

それでも「嫌なら辞めろ」とは言えない

ここまで読むと、「だったら転職すればいいじゃないか」と思うかもしれない。

しかし40代になると、そんな単純な話でもない。

若手なら将来性やポテンシャルを見てもらえる場面でも、40代ではこれまでの経験や実績、専門性、場合によってはマネジメント能力まで問われる。家族や住宅ローンがあれば、給与を大きく下げる決断も簡単ではない。

だから私は「会社が嫌なら今すぐ辞めろ」とは言わない。

むしろ辞める前に、一度考えたほうがいい。

会社を辞めたら、自分の問題は本当に解決するのか。

ここが重要だ。

会社を辞めても「自分」はついてくる

転職すれば、嫌な上司や理不尽な経営者から離れられる。給与が上がったり、通勤時間が短くなったり、働きやすい環境へ移れたりする可能性もある。それだけでも十分、転職する理由にはなる。

ただし、ひとつだけ転職先にも必ず持っていかなければならないものがある。

自分自身だ。

学ばなくなったこと、新しいものを避けるようになったこと、会社への不満ばかり口にするようになったこと、過去の成功体験だけで仕事をするようになったこと。もし自分の側にも問題があるなら、それは退職届を出しても消えてくれない。

会社をA社からB社に変えても、自分自身が何も変わらなければ、数年後にはB社で同じ不満を言っている可能性がある。

転職には「今いる場所から離れる」という意味と、「これから自分をどこへ持っていくか」という二つの意味があると思う。

前者だけで転職すると、単なる場所替えで終わることがある。

名刺を取り上げられたら、自分には何が残るのか

40代になったら、一度考えてみてもいい。

明日、会社の名刺を取り上げられたとする。会社名も役職もなく、部下もいない。会社の設備も使えず、会社の取引先も自分の顧客ではない。

その状態で「あなたは何ができますか?」と聞かれたら、何と答えるだろう。

これはなかなか怖い質問だ。

有名企業で働いていることも、部長として組織を管理していることも、大きな予算を動かしていることも立派なキャリアだ。ただ、その力のどこまでが自分のもので、どこまでが会社から借りているものなのか。

40代からは、この区別を少しずつ始めたほうがいいと思う。

文章を書けること、営業ができること、数字を読めること、人を育てられること、トラブルを収められること、業界について説明できること。さらにAIを仕事に使ったり、Webサイトを作ったり、誰かの相談に乗ったりする力も、自分の中に残る能力になり得る。

何でもいい。

会社の外へ持ち出せる能力を増やしていく。

私はこれが、40代から勉強する意味のひとつだと思っている。

副業や勉強は「逃げ道」ではなく、自分への投資になる

だから私は、40代から新しいことを始めるのはかなり意味があると思う。

資格の勉強をしてもいいし、本を読んでもいい。生成AIやプログラミング、Web制作を覚えるのもいい。文章を書いて発信したり、小さな副業を始めたりする方法もある。

すぐに金にならなくても構わない。

むしろ最初から「月10万円稼げる副業」ばかりを探していると、本質を見失うことがある。

40代からの副業や勉強には、会社以外でも自分が価値を作れるか試してみるという意味がある。

500円でも、自分が作ったものに誰かがお金を払ってくれた経験は大きい。自分の記事を知らない誰かが読んでくれたり、自分が作ったWebサイトを誰かが使ってくれたり、仕事で覚えたことを人に教えて感謝されたりする。

そうした経験は、会社の人事評価とは別の物差しを自分に与えてくれる。

私は収入以上に、そこに意味があると思う。

65歳になった自分を想像してみる

ここからが、一番考えたいことだ。

今の会社を辞めるべきか、それとも残るべきか。その答えを今抱えている不満だけから出すのではなく、65歳になった自分から逆算してみる。

65歳になったとき、自分はどんな人間になっているだろう。

昔の同僚でも、後輩でも、取引先でも、家族や友人でもいい。何か困ったことが起きたときに「あの人に聞いてみよう」と思ってもらえるだろうか。

それとも、「あの人には頼みたくないな」と避けられているだろうか。

私は、会社員として最後に残る差は案外ここなのではないかと思っている。

役職はいずれなくなる。会社の名刺もなくなる。しかし「あの人は信用できる」「あの人は詳しい」「あの人なら何とかしてくれる」という評価は、自分自身についてくる。

逆も同じだ。

肩書があるから周囲が従っていただけの人は、その肩書がなくなった瞬間に誰も寄ってこなくなるかもしれない。

40代は、その未来が少しずつ分かれ始める年代なのだと思う。

「今辞めたら、その答えは変わるか?」

だから、会社を辞めようか迷っている40代に、私はひとつ質問したい。

今辞めたら、65歳の自分は変わりそうか?

転職することで新しい経験ができる。今までとは違う仕事を覚えられる。尊敬できる人たちと働けたり、大きな裁量を持てたり、自分の専門性をさらに伸ばせたりする。

そうやって未来が変わる見通しがあるなら、私はいますぐ辞めてもいいと思う。

もちろん、本当に明日退職届を出せという意味ではない(笑)。転職先も決めず、生活資金も考えず、勢いだけで辞めることを勧めているわけではない。

言いたいのは、年齢だけを理由に自分の未来を変える選択肢を捨てる必要はない、ということだ。

逆に、会社を辞めても自分自身は何も変わらないと思うなら、まずは今いる場所で始められることをやればいい。本を一冊読む、AIを触る、資格の勉強を始める、副業を試す、Webサイトを作る、社外の人と会う、自分の経験を文章にしてみる。会社に残ったままでも、人生を動かす方法はいくらでもある。

「残る」ことだって立派な戦略だ

ここも強調しておきたい。

会社に残ることは敗北ではない。

待遇がよく、仕事も嫌いではなく、人間関係にも大きな問題がない。家族との生活を守ることができ、大企業なら福利厚生や信用力も利用できる。それらを全部捨ててまで転職する必要はない。

むしろ、会社の安定を利用しながら、自分自身の価値を育てるという戦略はかなり強いと思う。

給料をもらいながら勉強する。休日に小さな仕事を始める。会社ではマネジメントを経験し、外では別の技術を覚える。そうやって会社に依存する割合を少しずつ減らしていく。

「辞めるか、残るか」の二択ではなく、残りながら準備するという選択肢もある。

40代には、むしろこの方法が現実的な人も多いはずだ。

40代は「自分」を経営し始める年代

若い頃は、会社に育ててもらう部分が大きい。仕事を教えてもらい、経験を積ませてもらい、少しずつ給料も上がっていく。

だが40代になると、会社が自分の人生を全部設計してくれるわけではないことに気づく。

会社には会社の都合があり、人事には人事の都合があり、経営者には経営者の都合がある。それは当然だ。

だったらこちらも、自分の人生には自分の都合があると考えていい。

会社員を辞める必要はないし、会社と戦う必要もない。ただ、自分の時間や能力、経験、信用、お金をどこへ投資するのかを、自分で考え始める。

言い換えれば、40代は**「自分自身を経営し始める年代」**なのかもしれない。

今の会社から給料をもらいながらでもいい。そこで出世を目指してもいいし、転職してもいい。副業を始めても、いつか独立してもいい。

重要なのは、会社に人生のハンドルを全部預けないことだ。

20年あれば、人はかなり変われる

45歳から65歳までなら20年ある。

冷静に考えれば、かなり長い。

今から毎週少しずつ勉強するだけでも相当な時間になる。新しい仕事を覚えることも、専門分野を作ることも、副業を仕事に育てることもできる。人間関係を作り直すことだってできるだろう。

何より、自分自身の考え方を変える時間がある。

40代になると「もう遅い」という言葉を、自分自身に使いたくなることがある。転職するには遅い、新しいことを始めるには遅い、今さら勉強しても仕方がない、と。

だが本当に怖いのは、45歳で「もう遅い」と思うことではない。

65歳になったとき、「45歳のときに始めておけばよかった」と思うことだ。

それなら、小さくても今始めたほうがいい。

会社はいつか辞める。それまでに何を持ち出すか

会社員である以上、いつか会社を離れる日は来る。転職するかもしれないし、定年までいるかもしれない。自分より先に会社そのものがなくなる可能性だってある。

その日がいつ来るかは選べないかもしれない。

しかし、その日までに自分の中へ何を蓄積するかは、ある程度選べる。知識や技術、経験、判断力、人とのつながり、そして信用は、会社を辞めても持っていける。

会社を離れる日に「○○社の部長でした」しか残っていないのか。それとも、「会社は辞めたけれど、この人にはまだ頼みたい」と思ってもらえるのか。

私は後者でありたい。

だから40代のキャリアを考えるとき、最初の質問を「転職するべきか」にしたくない。

65歳の自分は、頼られる人物になっているか。それとも、避けられる人物になっているか。

そしてもうひとつ。

今の会社を辞めることで、その答えは変わりそうか。

変わる見通しがあるなら、動けばいい。変わらないなら、会社を変える前に自分を動かせばいい。

残るのもいい。辞めるのもいい。

ただし、自分まで止まってはいけない。

40代は、まだ途中だ。