トイレを済ませ、何気なく便器を見る。
赤い血がついている。
「うわ……」
一瞬驚く。
でも、少しするとこう考える。
「まあ、痔だろう」
40代ともなれば、一度くらい痔を経験したことがある人も珍しくない。
長時間のデスクワーク。
便秘。
飲酒。
運動不足。
トイレで長時間スマートフォンを見る習慣。
思い当たることはいくらでもある。
ドラッグストアへ行けば痔の薬も簡単に買える。
軟膏、注入軟膏、坐剤。
使ってみたら血が止まった。
「やっぱり痔だった」
そう考えて、この話は終わる。
――本当に、それでいいのだろうか。
ここで知っておきたいことがある。
痔と大腸がんには、症状だけでは簡単に区別できないケースがある。
特に「血便」「便に血が付く」という症状だ。
国立がん研究センターのがん情報サービスによれば、大腸がんは早期には自覚症状がほとんどない。
進行すると、便に血が混じる、便の表面に血液が付着する、便秘や下痢、便が細くなる、残便感、お腹の張りなどが現れることがある。
そして、便に血が混じる・血が付着するといった症状は比較的多い。
問題は、これらが痔でも起こり得ることだ。
つまり、
「血が出た=大腸がん」ではない。
しかし同時に、
「血が出た=痔」とも限らない。
ここを40代からは覚えておきたい。
この記事は不安を煽るための記事ではない。
むしろ逆だ。
怖いから見ない。
恥ずかしいから病院へ行かない。
痔だと思うことにする。
そうやって不安を先送りするより、知識を持って正しく判断できた方がずっといい。
今回は、誰にも相談しづらい「痔」と、その陰に隠れる可能性のある「大腸がん」について、40代から知っておきたいポイントを整理してみよう。
まず、痔は大きく3種類ある
そもそも「痔」と一言で言っても、すべて同じものではない。
代表的なのは、
いぼ痔(痔核)
切れ痔(裂肛)
痔ろう
などだ。
一般的に「痔になった」と言うと、いぼ痔や切れ痔をイメージする人が多いだろう。
排便時に強くいきむ。
便秘で硬い便が出る。
長時間座り続ける。
こうした生活の中で肛門周辺に負担がかかり、出血や痛みなどの症状につながることがある。
だから、
「最近便秘だったから」
「仕事でずっと座っているから」
「以前も痔になったから」
と考えてしまうのも無理はない。
実際、本当に痔であることも当然ある。
問題なのは、ここからだ。
本人が「痔だと思う」ことと、医学的に「痔である」と確認されることは同じではない。
大腸がんでも「血が付く」ことがある
大腸がんは、大腸の結腸や直腸に発生するがんだ。
国立がん研究センターによると、日本人ではS状結腸と直腸にできやすいとされている。
そして大腸がんの厄介なところは、
早期には自覚症状がほとんどないこと。
進行すると、
便に血が混じる。
便の表面に血液が付く。
便秘や下痢が起こる。
便が細くなる。
便が残っているような感じがする。
お腹が張る。
慢性的な出血によって貧血になり、めまいなどが起こる。
といった症状が現れることがある。
もちろん、こうした症状があるからといって大腸がんだという意味ではない。
便秘も下痢も、日常生活で普通に起こる。
血便も痔で起こる。
だからこそ難しい。
症状をインターネットで検索して、
「鮮血だから痔」
「痛いから痔」
「少量だから大丈夫」
と自分だけで診断するのは避けたい。
症状には個人差があり、血の色や量だけで病気を確定することはできないからだ。
「鮮血なら痔」は、本当に信用していいのか
ネットではよく、
「真っ赤な血なら痔」
「黒っぽい血なら大腸の病気」
といった説明を見かける。
確かに、出血した場所によって便の見え方に違いが生じることはある。
しかし、それを自己診断のルールとして使うのは危険だ。
直腸は肛門に近い。
大腸がんは直腸にも発生する。
国立がん研究センターも、大腸がんの症状として「便の表面に血液が付着する」ことを挙げている。
つまり、
「赤い血だから肛門からの出血だろう」
と見た目だけで結論を出すことはできない。
同様に、
「痛くないから大丈夫」
とも限らない。
大腸がんは早期には自覚症状がほとんどないことがある。
逆に痔には痛みを伴うものもあれば、あまり痛みを感じないものもある。
結局、
色・痛み・量だけで自分が病名を決めない。
これが一番重要になる。
40代になったら「痔だろう」で終わらせない
若い頃なら、多少身体に異変があっても、
「そのうち治るだろう」
と考えていたかもしれない。
40代からは、その習慣を少し変えたい。
怖がる必要はない。
ただし、
確認する習慣を持つ。
これが大切だ。
40代は仕事でも家庭でも忙しい。
会社を休みづらい。
病院へ行けば半日つぶれる。
肛門を診察されることへの抵抗もある。
だから、
「もう少し様子を見よう」
となる。
そして症状が消える。
すると、
「治った」
と思う。
ここにも落とし穴がある。
症状が一時的に消えたことと、原因が確認されたことは別の話だからだ。
特に繰り返す出血や便通の変化などがあるなら、自己判断だけで終わらせない方がいい。
国立がん研究センターも、血便などに気づいた場合は、自己判断せず消化器科、胃腸科、肛門科などの医療機関を早めに受診するよう案内している。
これは、
「血が出たら大腸がんを疑って怯えろ」
という意味ではない。
痔なのか、それ以外なのかを専門家に判断してもらおう
という、ごく合理的な話だ。
市販の痔薬で治ったら、大腸がんではない?
これも注意したい考え方だ。
痔の症状に対して市販薬を使い、痛みや出血が改善することはある。
だから市販薬そのものを否定する必要はない。
痔と診断されている場合や、薬剤師・医師などに相談した上で適切に使用することには意味がある。
ただし、
「薬を使ったら血が止まった=原因は痔だった」
とまでは言えない。
人間の身体の症状は常に一定ではない。
出血する日もあれば、しない日もある。
だから薬を「病気を判定するテスト」として使うことはできない。
痔の薬は痔の症状を治療するためのものであって、大腸がんを否定するための検査ではない。
ここは分けて考えたい。
便潜血検査を「痔だから」で無視しない
40代から特に覚えておきたいのが、便潜血検査だ。
健康診断や自治体の大腸がん検診などで経験したことがある人もいるだろう。
便を採取し、肉眼では分からないような血液が含まれていないかを調べる。
国立がん研究センターのがん検診Q&Aでは、毎年便潜血検査を受けることで約8割の大腸がんを見つけることができると説明されている。
そして、非常に重要な注意点も示されている。
便潜血検査で陽性になった人が、
「自分は痔だから」
「もう一回便潜血検査をして、それでも陽性だったら内視鏡を受けよう」
と考えるのは適切ではない。
同センターは、便潜血陽性後にもう一度便潜血検査を行い、陰性だったとしても、大腸がんではないことの保証にはならないとしている。
なぜなら、病変からの出血は毎日同じように起きるとは限らないからだ。
だから、
便潜血陽性 → 痔だと思う → 放置
ではなく、
便潜血陽性 → 指示された精密検査へ
という流れを守る。
これはぜひ覚えておきたい。
大腸内視鏡が怖い、という問題
ここまで読んで、
「分かっているけど、内視鏡が嫌なんだよ」
という人もいると思う。
その気持ちはよく分かる。
大腸内視鏡検査と聞けば、
「痛そう」
「恥ずかしい」
「下剤が大変そう」
「仕事を休まないといけない」
など、いろいろ考えてしまう。
そして、
「痔だと思うことにしよう」
という誘惑が生まれる。
しかし、不安を抱えたまま何カ月も過ごすことと、一度検査して原因を確認することを比べてみてほしい。
国立がん研究センターも、現在は内視鏡機器や挿入技術の進歩によって、検査に伴う苦痛は以前より軽減されているとしている。
もちろん感じ方には個人差がある。
検査方法や鎮静の対応なども医療機関によって異なる。
だから不安なら、予約時に聞けばいい。
「痛みが怖いです」
「初めてなので不安です」
それでいい。
50歳の会社員がそんなことを言ったって、何も恥ずかしくない。
医療機関からすれば日常の診療だ。
「恥ずかしい」は健康より重要なのか
痔や肛門の病気には、独特の受診ハードルがある。
肩が痛ければ整形外科へ行く。
目が痛ければ眼科へ行く。
ところがお尻になると突然、
「見せるのが恥ずかしい」
となる。
気持ちは分かる。
でも医師や看護師は毎日診ている。
こちらが思っているほど特別な出来事ではない。
むしろ問題なのは、
恥ずかしさのために必要な診察まで遅らせることだ。
40代になると、自分の身体を守ることも人生設計の一部になる。
健康を失えば、仕事にも影響する。
収入にも影響する。
家族にも影響する。
資産形成どころではなくなることもある。
RClassでは仕事やお金について何度も考えている。
でも、その土台にある最大の資産は結局、
自分の身体だ。
身体のメンテナンスを後回しにして、仕事だけ頑張る。
それでは人生のポートフォリオとして偏りすぎている。
「がんかもしれない」と検索し続けない
もう一つ、40代からやめたいことがある。
身体に異変があるたびにスマートフォンで検索し、
「血便 大腸がん」
「痔 大腸がん 違い」
「鮮血 大丈夫」
と何時間も調べ続けることだ。
検索すればするほど不安になる。
あるサイトには「大丈夫」と書いてある。
別のサイトには「がんの可能性」と書いてある。
さらに検索する。
眠れなくなる。
翌朝また検索する。
これは問題を解決しているように見えて、ほとんど前へ進んでいない。
インターネットは、
何を知るべきかを理解する場所
としては便利だ。
しかし、
自分の病名を確定する場所
ではない。
ネット検索で安心を買おうとすると、安心できる情報が見つかるまで検索することになる。
それなら、
「一回診てもらおう」
と決めた方が早い場合がある。
40代からの健康管理に必要なのは、病気について何でも知っていることではない。
自分で判断していい領域と、専門家に渡す領域を見分けることだ。
痔だった。それならそれでいい
ここまで大腸がんについて書いてきたので、
「血が出たら大変だ」
と感じた人もいるかもしれない。
そうではない。
診察して、
「痔ですね」
と言われた。
それなら、それでいいのだ。
むしろ一番安心できる。
そして本当に痔なら、今度はきちんと痔を治療すればいい。
便秘を改善する。
長時間いきまない。
トイレにスマートフォンを持ち込んで長居しない。
適度に身体を動かす。
必要なら軟膏や坐剤などを適切に使用する。
症状が続けば再び相談する。
「大腸の病気じゃなかった。良かった」
で終わりではなく、
なぜ痔になったのかを考えて生活を少し直す。
それが40代の身体との付き合い方だと思う。
怖い病気ほど「早く知る」という発想を持つ
人は怖いものほど見ないようにする。
健康診断の結果を開封しない。
再検査の通知を机にしまう。
血が出ても痔だと思う。
しこりがあっても様子を見る。
理由は単純だ。
怖いからだ。
でも、
知らなければ病気が存在しなくなるわけではない。
逆に、異常がなければ早く安心できる。
何か見つかった場合でも、その後の対応を医療者と考えることができる。
国立がん研究センターは、大腸がんを含むがんについて、種類や発見時の状態によって病状や経過はさまざまだとしている。
だから、
「がん=終わり」
と短絡的に考える必要もない。
怖がりすぎない。
しかし軽視もしない。
この中間に立つことが大切だ。
40代からは「自分の身体を雑に扱わない」
若い頃は身体を酷使できた。
徹夜しても働けた。
暴飲暴食しても翌日には戻った。
多少調子が悪くても放っておけば治った。
その成功体験が40代では逆に危ない。
身体は少しずつ変わっている。
だから40代からは、
身体の異変を「我慢する」のではなく「観察する」習慣
を持ちたい。
血が出た。
便通が変わった。
妙に疲れる。
体重が意図せず減った。
お腹の調子がおかしい。
そうした変化があれば、
「年齢だから」
「疲れているだけ」
「痔だろう」
と即座に結論を出さない。
必要なら診てもらう。
たったそれだけだ。
健康管理というと、
毎日1万歩。
野菜を食べる。
酒を減らす。
筋トレする。
睡眠を取る。
そんな「やること」ばかり思い浮かぶ。
もちろん大切だ。
しかし、
異変を放置しないことも立派な健康管理だ。
最後に――「たぶん痔」は診断ではない
トイレットペーパーに血が付いた。
便に血が混じっている。
そんなとき、多くの人が最初に考えるのは痔だと思う。
実際に痔であることもある。
だからパニックになる必要はない。
しかし、覚えておいてほしい。
「たぶん痔」は診断ではない。
大腸がんは早期には症状がほとんどないことがあり、進行すると血便などが現れることがある。
そして、その血便は痔でも起こり得る。
だから自分だけで完全に見分けようとしない。
特に出血が続く、繰り返す、便通の変化など気になる症状がある場合は医療機関へ相談する。
そして便潜血検査で陽性を指摘されたら、
「痔だから大丈夫」
と自己判断して精密検査を飛ばさない。
40代はまだ若い。
だからこそ、これから先が長い。
仕事もある。
やりたいこともある。
家族との時間もある。
老後の準備だってこれからだ。
その長い人生を支えているのは、自分の身体である。
お尻から血が出た。
恥ずかしい。
病院に行きたくない。
そう思ったっていい。
でも、その次に、
「一度確認しておくか」
と思える人でいてほしい。
怖がる必要はない。
放置する必要もない。
40代からの健康管理とは、身体の小さなサインに怯えることではない。
身体から届いたサインを、雑に扱わないことだ。
それだけでも、これからの人生を守る立派な生存戦略になる。
